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書名:幼年期の終わり(Chilldfood's End)
著者:アーサー・C・クラーク
読んだ後に、”何か”が成長するSF
ついに人類が宇宙へと飛び出そうとしたとき、オーバーロードと名乗る宇宙人の宇宙船が現れて、人類を地球に隔離した。
しかし、彼らは侵略をせず、人類に技術を提供し、平和な世界を構築していく。ただ、彼らは姿を見せず、宇宙に飛び立つ事だけは禁止していた。
オーバーロードの庇護の下、数百年単位で人類の文明は発展していく。その途中で、オーバーロードの目的と彼らの背後のある存在の事が明かされていく。
そして、”幼年期の終わり”という題名の通り、終盤で、人類は幼年期を終えて、次の段階に移る。人類の行き着く先は…
SFだが、哲学的要素も強い作品です。
詳しくは述べませんが、バッドエンドとも、ハッピーエンドとも取れる驚きの結末が待っています。
この結末を受け入れられるかは、人それぞれでしょう。個人主義が正しいと言われる事が多い現在の常識からは、到底通用するものではありません。しかし、それを善でも悪でもなく、あくまで幼年期が終わった次の段階として描き切った所が、この作品の優れた点です。
争いの世界から、生命体が進化を遂げるパターンは多いですが、こちらはきちんと平和な世界が出来てから進化が生じる辺りは、物語性よりも現実味を重視しています。そういった点がファンタジーではなくSF的です。
オーバーロードと彼らを背後で操る存在のオーバーマインドは、非常に対照的で進化の行き着く二つの極限の比喩とも取れると思います。
意外な結末を描く事で、読者の方もセンス・オブ・ワンダーを感じ、”幼年期”が終わり、成長するかもしれません。
書名:冷たい方程式(The Cold Equation)
著者:トム・ゴドウィン
”自然”法則の冷たさを描いた名作。
惑星ウォードンにワクチンを届けに向かう宇宙船に、少女が密航した。
冷酷な規則を知らず、ただ兄に会いたいがためだけに。
しかし、パイロットと少女の二人が惑星に行けるだけの余分な燃料はなく、どちらかが宇宙に投擲される必要があった。
この”冷たい”方程式の解法は......
いわゆるカルネアデスの舟板の未来版で、物語的には良くある話です。
しかし、この作品の魅力は、以下の一文の様に、その舟板状況を冷酷な方程式に当てはめて表現した所にあります。
EDSs obeyed only physical laws, and no amount of human sympathy for her could alter the second law.
EDSは物理的法則だけに従う。彼女に対して人間的同情をいくら与えようと、第二法則を変える事は出来ないのだ。
先頭のEDSとは、 Emergency Dispatch Ship(緊急発進艇)の略で、パイロットと少女が乗り込んでいる船の事です。(同じく物理法則に従いますが、エネルギー分散型X線分析の略ではありません。)
冷酷な自然法則の前には、呪う事も慈悲を乞う事も無意味な事を、シンプルな物語の中で痛切に表現しています。
細かい話ですが、作中の、ワクチンを届けに向かう惑星ウォードン(Woden)と、少女が向かう予定だった惑星ミーミア(Mimir)は、それぞれ北欧神話のオーディンとミーミルが由来です。
北欧神話では、オーディンが知識を得るミーミルの泉を飲むために、片目を捧げています。また、その泉の巨人ミーミルが殺された時、彼の知識を惜しんだオーディンは、ミーミルを首だけで生き返らせています。
この辺りの、知識や何かを得るための犠牲という事で、ゴドウィンはこの名を選んだのかもしれません。
小説内では、舟板状況に陥った人々のドラマも描かれていますが、その要素は他の様々な作品で見る事が出来るものです。舟板状況に陥った人々を描くのみならず、舟板状況の背後にある事象(この場合は自然法則)にも描写を割いている事がこの作品の一番の魅力です。
また、”方程式もの”と呼ばれる様々な作家による派生作品を生んだ事からも注目すべき作品です。
原作が短編であり、状況設定が細かくカスタマイズできる事もあって、色々な作品が生まれたのでしょう。
有名な所では、クラークの『破砕の限界(Breaking Strain) 』、『逃亡者(Refugee) 』、『渇きの海(A Fall of Moondust)』や 梶尾真治の『フランケンシュタインの方程式』、石原藤夫の『解けない方程式』、堀晃の『連立方程式』などがあります。
要因はかなり違いますが、ジェイムズ・ティプトリー・Jrの『たったひとつの冴えたやりかた』も、広義の方程式ものといえます。
原文は英語ですが、邦訳では旧訳と新訳があり、現在でも早川書房から新訳が売られています。
新訳は、『冷たい方程式』の本編は、約50ページの短編なので、他の短編作品を9編入れたアンソロジーになっています。
しかし、他の作品は方程式ものではなく、同じ作者の作品を集めた訳でもなく関係性が薄いのが難点です。
ですが、翻訳者による後書きで、この作品の制作秘話などが語られていたりするので、一読の価値はあります。